空飛ぶ男(安部公房著)の結末が2通りある話
今でも、高校時代の現代文の教科書を大切に読んでいます。中でも、授業で「日本版SFの大家」と先生が紹介された安部公房著作の「空飛ぶ男」が気に入っています。
この作品は、新潮文庫の「笑う月(昭和59年発行)」に収録されている短編で、著者が見た夢を綴った夢日記を元に書かれているそうです。面白いことに、本作品は文庫本(笑う月収録分)の結末と、教科書版の結末が違います。
文庫本のあらすじはこうです。夜明け前、自宅の窓からふと見かけてしまった「空を自由に飛ぶ男」が私の家の玄に現れます。玄関先でその不思議な力に関して、立ち話をした後「朝早くから失礼しました」と男が立ち去ります。(かなり省略していますので、空を飛ぶ力への想像をかき立てる魅力的な本作品をぜひお読みください)
それに対して、教科書版「空飛ぶ男」では、空を飛ぶことに憧れる私に対して、男がポケットの小瓶から丸薬を二、三粒取り出し、
「遠慮はいらねえ、だまされたと思って、ためしてみなよ。二時間もすりゃ、1メートルくらいは軽く飛べるようになる。あとは練習次第で・・・。」
と、空を飛ぶ力が簡単に手に入る薬をすすめてきます。
あれから25年も経ってしまいましたが、教科書版「空飛ぶ男」に書かれた空を飛ぶ力が簡単に手に入る薬のくだりは、これから社会に出ていく高校生に向けた著者からの強いメッセージだったのかもしれません。
教科書版「空飛ぶ男」の結末はこうです。
のびきった感情の、切断音。ぼくは反射的に、相手の腕を払いのけていた。ちりちりと、全身の皮膚を焼く、おびえの感情。とっさに廊下に駆け出し、妖怪に出会ったような錯乱ぶりで、アパートの住人たちに救いを求めていたという。
「あいつ、飛んだぞ・・・空を、飛んだぞ・・・。」
糾弾し続ける、憎悪の海。背をこごめ、逃げ去っていくのも、ぼくの後ろ姿。あれ以来、空飛ぶ夢も、いっこうに楽しいものではなくなった。地球の引力から逃れても、いずれ泳ぎ続けるのは、涙の海。(引用:高等学校現代文 大修館書店 平成7年発行)
最後まで読んでくださってありがとうございます。また次回、本好きのエピソードを紹介します。
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